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ハイスクール・ベイビー(二)

(一)に戻る


わたしは急いで凛ちゃんに電話をかけた。
しかし、時間はまだ朝の7時だった。

「ふあーい、どうしたの凛ちゃん?」

真奈ちゃんは寝ぼけた様子で応対した。
こんな時間だ。当然ながらまだ寝ていたようだ。
少し気の毒だったかなと思いながらも話を続けた。

「あっ、ごめん……まだ寝てたよね。でも、大変なの……! 
 真奈ちゃんが昨日言ってたあの言い伝えなんだけど、本当だったの!」

「ん~? 何が~? どういうこと~?」

「えーっと、それは……」

「まさか、またおねしょしちゃったの?」

「う……うん……」

「……ぷっ! きゃっはっは!」

一息を置いた後に甲高い声で笑い声を上げる真奈ちゃん。
電話越しに腹を抱えて「く」の字になっている様子がその声から容易に想像できた。

「わ、わらいごとじゃないよぉ」

「本当に~?」

「本当だよぉ……どうしよう……」

「そうだなー、おばあちゃんに聞いてみるよ!
 何か呪いを解く方法とか知ってるかもしれないし」

「本当? それじゃ申し訳ないけど、おねがい~」

「まっかせといて、話聞いたら連絡するね!」

はぁ、大変なことになってしまった。
これから毎日おねしょだなんてシャレにならない。

とにかくどうにかしないと……。

首を長くして真奈ちゃんの確認を待っていると、
8時頃になって携帯電話が鳴った。
真奈ちゃんから電話がかかってきたのだ。

「もしもし?」

「凛ちゃん、おばあちゃんに聞いてみたらさ、
 直接話したいから今から家に来いって。
 なんだか厳しい顔してたよ」

「ええ……なんかこの村の禁忌に触れたりしたのかな……。
 とりあえずわかった。これから行くね」

電話を切ると急いで着替え、真奈ちゃんの家に向かった。


「あらあら凛ちゃん、あけましておめでとう」

真奈ちゃんの家で最初に出迎えてくれたのは
真奈ちゃんのお母さんだ。

「あけましておめでとうございます」

新年の挨拶を交わすと、真奈ちゃんが出てきた。

「あっ、凛ちゃん。 おばあちゃん待ってるよ」

真奈ちゃんに案内されて、おばあさんの部屋に入る。
おばあさんの部屋は、The おばあさんの部屋と言わんばかりの、
神棚のある畳張りの部屋で独特の匂いがする。

おばあさんは部屋の中央に座してわたしを待っていた。

「凛ちゃんかね、元旦にからおねしょしたっていうのは」

おばあさんは垂れたまぶたを持ち上げてわたしを見つめる。
歳はもう90くらいになるだろうか、かなりお年を召しているが、
それでもまだまだはっきりしていて、
地に落ちそうな頬っぺたとしわくちゃの顔、
そして枯れ乾いた低い声はからなんとも言えぬ貫禄が放たれていた。

「は、はい……お恥ずかしながら……」

「ふうむ、あの呪いを解くのは大変なことじゃあ……」

「おばあさん、呪いの解き方を知ってるんですか!?」

「んむ……」

「是非、教えてください! このままじゃわたし、毎日おねしょすることに……」

藁にもすがる思いだ。本当にシャレにならない。
春には修学旅行が控えているのだ。
もし毎日おねしょしてしまう体質のままなら修学旅行なんて、
とてもじゃないが、行けたものではない。

わたしはおばあさんの前にひざまずいた。
すると、おばあさんはまるで禁断の呪法でも教えるような険しい口調で言った。

「呪いを解くには協力者が必要になる。
 しかも、その協力者は……凛ちゃん、あんた自身が本当に信頼を置ける
 人物でなくてはならぬ」

「本当に信頼を置ける人物……?」

「左様、しかも常に一緒に居られる人物じゃ。母親がいいんだがのう」

わたしの家は父も母も仕事の関係上、海外にいて常に留守している。
わたしが信頼していていつも一緒に居られる人物なんてのは……
そう、真奈ちゃんくらいのものだ。

でも、真奈ちゃんを巻き込むのはさすがに悪い気がする。
そう思った矢先、

「じゃあわたしは?」

と真奈ちゃんが自分から手を上げてくれた。
わたしはなんて良い親友を持ったのだろう。

しかし、おばあさんは難しい顔をした。

「ううむ、真奈にそれができるかのぉ……」


それでも、真奈ちゃんはいつになく真剣だ。

「おばあちゃん、わたしは何をすればいいの?」

おばあさんは真奈ちゃんの眼差しからその覚悟を見て取って
ふんと笑い、そして言った。

「それはじゃな、この子を赤ちゃんにするんじゃ」

『ええ!? 』

凛ちゃんとわたしで二人同時に声を上げる。

『わたしを(凛ちゃんを)赤ちゃんに……!?』

わたしを赤ちゃんにするとは、一体どういうことだろう?
おばあさんの話にさらに耳を傾ける。

「左様、凛ちゃんを赤子にすれば、呪いは解けるじゃろう……。
 これはまだわしが若かった頃の話じゃがのお、
 凛ちゃんと同じように元旦におねしょして、
 呪いをかけられてしまった子がおったんじゃ。
 じゃが、言い伝えどおりにその子を赤ちゃんにしたら、
 おねしょ癖も治ったんじゃ。きっと赤ちゃんにすれば
 呪いが憑く人を間違ったと、勘違いするんじゃろう」

なんとなく納得できるような出来ないような、不思議な話だ。

「しかし、呪いを解くには心の底から赤子に戻りきらねばならん」

「心の底から……」

「んむ、赤ちゃんになりきって、心の底から母親に
 甘えることができなければ、呪いは解けないのじゃ」

「でも……赤ちゃんになるなんて、どうすればいいんですか?」

「それはじゃな……赤ん坊の格好をして、赤ちゃんに成り切るんじゃ」

『ええ!?』

また二人でハモってしまう。

「しかも、生半可なものではだめじゃ。きちんと母親役が何から何まで
 全部世話して、凛ちゃんの心が赤子にならねば、呪いは解けぬ」

「そんな……」

これは要するに赤ちゃんプレイみたいなことをするということなのだろうか?
いくら凛ちゃんでも、そんなことをお願いするのは無理だ。
さすがに、そんなことはお願いできない。

……しかし、そんなわたしの遠慮や拒絶感とは裏腹に、
凛ちゃんは瞳の奥に使命感を燃やしていた。


「やる!わたし、凛ちゃんを赤ちゃんにしてみせる……!」

「ええ、良いの!?」

「だって、ほかに凛ちゃんの呪いを解く方法は無いんでしょ?
 それならわたしは全然構わない!」

真奈ちゃんはおばあさんにた対峙するように向かい合い、
まるでアニメの大詰めでヒロインのように胸に手を当てながら言った。

おばあさんは、真奈ちゃんの眼差しを試すかのように
右目の瞼を上げて、真奈ちゃんの瞳の奥を覗いた。
そして、真奈ちゃんの覚悟を悟ったようだった。

「よく言った……しかし、この道は険しいぞい……」

「師匠! お願いします!」

……一体この人たちはどういうテンションなんだ。
とはいえ心強い。

問題はわたしは本当に赤ちゃんになれるかどうかだ。
思ってみれば両親に甘えたことなど記憶にない。

父も母もいつも仕事仕事でわたしのことはいつも置き去りだった。
わたしには親とか家族とか正直よくわからないのだ。

だがしかし、ここで赤ちゃんになれないと
一年中おねしょするハメになってしまう。
こうなれば仕方ない、わたしも覚悟を決めなければならない!

「お願いします!」


こうしてわたしたちはおばあさんに弟子入りを果たすことになった。


「……で、これから何をすれば?」

「凛ちゃん、おぬしは家に帰りなされ」

「え?」

「これから真奈に呪いを解くまでの手筈を教える。
 じゃが、凛ちゃんがそれを知ってしまった場合、
 それに合わせた振る舞いをするじゃろう。
 しかし、それではただの儀式になってしまう。
 そうではなくて、心も体も赤ん坊に還らねばならん。
 そのためには、何も知らないほうがいいんじゃ」

「なるほど……そうですか」

妙な説得力がある。
要するに自然体のまま赤ちゃんにならなければならないということだ。

「じゃあ、方法を教えてもらったら凛ちゃんの家に行くから待ってて!」

「ありがと、それじゃよろしくね」

これからわたしは赤ちゃんみたいに……いや赤ちゃんになるのだ。
しかし、そんなことで本当に呪いは解けるのだろうか?
もしおばあさんの言っている方法で呪いが解けなかったら……。
不安な気持ちになりながらも家に戻った。

家に着いてから3時間ほど経ったあと、家のインターホンが鳴った。

「凛ちゃーん」

真奈ちゃんだ。

「はーい」

真奈ちゃんを玄関に迎えると、彼女は台車をもって大荷物でやってきた。
ダンボールに何やら詰めており、まるで引越しでもするかのようだ。

「すごい荷物で来たね……」

「凛ちゃん、今日からしばらく凛ちゃんちに泊まってもいい?」

「うん、いいけど……」

家はわたし一人しかいないので全く問題ない。

「よかった、着替えとか色々持ってきちゃったんだよね。そうそう、あとこれも」

真奈ちゃんはダンボールのなかを漁り始めた。
そして取り出したものは……

「じゃーん!」

「お、おむつ!?」

「うん、毎日おねしょしちゃうんだったら必要でしょ?
 それに赤ちゃんになるんだから当然おむつしなきゃいけないし、
 これから呪いが解けるまでおトイレは禁止だよ」

「ええ~!? ひょっとして、おむつにおしっこするの?」

「だって、おねしょ治すためでしょ?」

「な、なんかそれ本末転倒な気が……」

「早く治した方が後々に響かなくていいんじゃないかなー」

「まぁ……確かにそうだけど……。 うん」

修学旅行のためだ。仕方がない。

「それじゃ、これから凛ちゃんが赤ちゃんになるための決まりごとを言うよ?」

「決まりごと?」

「そう! 三箇条の決まりごと!

一つ、わたしのことはママと呼ぶこと。
一つ、ママのいうことは絶対。
一つ、ママには遠慮しないこと。

これらを守れば、わたしが凛ちゃんを必ず赤ちゃんにしてあげる!」

赤ちゃんにしてあげるって言われてもなぁ……。
それにしても真奈ちゃん、ノリノリである。

「わかった?」

「……わかった」

しぶしぶ納得する。

「では、早速おむつにします!」

「質問!」

「はい、なんでしょう?」

「おむつはまさか、真奈ちゃんが替えるんじゃないよね?」

「ブー! 『真奈ちゃん』じゃなくて『ママ』! やりなおし!」

もう赤ちゃんになるためのプログラムは始まったようだ。

「えー……そ、それじゃ、おむつは、その……マ、ママが替えるの?」

「ピンポーン! 正解!」

「ええー!? わたし一人でできるからいいよぉー」

「ダメです。赤ちゃんは一人でおむつを替えられません」

「ええ~……」

「はい、ママの言うことは絶対! そこのベッドにねんねして」

「うう……本当にやるのぉ~?」

「ママに二言はない!」

「ええ~」

「もう、さっきから『ええ~』が多い! 次から『ええー』とか『うう』とか言ったら、『ばぶぅ~』に変えて言い直すこと!」

(ええ~)

心のなかでせめて抵抗してみる。

「はい!今、心のなかで『ええ~』って言ったでしょ!
 心のなかでいいから『ばぶぅ~』って言い直しなさい!
 ママには分かるんだからね!」

(ばぶぅ~)

真奈ちゃんは読心術でも身につけてきたのだろうか……完全に心を読まれている。
このママは油断ならない。

「おむつ替えますよ。 ベッドにねんねして」

「はぁい……」

とうとう観念してしまった。
気は進まないが、ベッドにねっころがる。

「はい、それじゃあんよこっちに向けてー」

「うう……」

誰にもこんな格好みせたことないのに……!

「はい、今『うう……』って言った! ばぶぅって言い直して!」

くっ、流石真奈ちゃん、しっかりものだけあって抜け目がない。
仕方なくルールに従う。

「ば、ばぶぅ~」

「うふふ、いい子でちゅね~」

死にたい……。

「それじゃおパンツぬぎぬぎするよー」

真奈ちゃんがわたしのスカートのなかに手を伸ばす。
そして、パンティに手をかけた。
恥ずかしくておもわず顔を手で隠してしまう。

真奈ちゃんの手によってするするとパンティが下げられていく。
下半身がひんやりする。

あっというまにパンティが全部脱がされてしまった。
ああ、わたしのあそこは真奈ちゃんにもう丸見えだ。
同性といえどこんなポーズで、わたしの大事なところを
見られるなんて恥ずかしすぎる。

「はい、次はおむつあてようねー」

凛ちゃんはわたしの腰を浮かせると、お尻の下にすばやくおむつを敷いた。
そして、丸い缶のなかに入ったベビーパウダーをたくさんパフにつけて、
わたしの足を持ち上げ、あそこを中心にぽんぽんとまぶしていく。

真奈ちゃんにこんなことされるなんて……。

恥ずかしいような、情けないような、悔しいような、
七色の羞恥がわたしの五体を駆け巡る。

真奈ちゃんのおばあさんが
「呪いを解くには本当に信頼の置ける人物の協力が必要」
と言っていたのはこういうことだったのか。

いやいや、こんなことをされるのは例えお母さんであってもお断りだ。
それならもういっそのこと、一年間おねしょしたほうがマシかもしれない。

しかし、こうして真奈ちゃんの思うようにされているのは、
この場合においては、真奈ちゃんだからこそ、
それを許せてしまうと言ってもいい。

そう、真奈ちゃんは絶妙なのだ。
真奈ちゃんの調子のいいノリについつい乗せられて、
おふざけでもしているつもりになって、わたしも悪ノリしてしまう。
いまもどこか、そういう悪ノリ的な部分が働いてそれを許してしまっているのだ。

しかし、ああ……。
親友におむつを当てられるなんて、これはもう変態の領域だ。
危ない道に進んでいるような気がする……。

そんなわたしの不安などいざ知らず、
真奈ちゃんはテキパキとわたしのお股をおむつで包み込み、
テープを伸ばしてウエストで留める。

「はい、出来上がり!」

真奈ちゃんはひと仕事やり遂げてご満悦だ。

「どう、おむつの穿き心地は?」

なんだか、お尻がもこもこになって妙な温もりを感じる。
でもなんだろう、このお尻全体が包まれたような感覚はパンティのそれとは全く違う。
どこか懐かしくて、安心感みたいなものを感じる。

自分が赤ちゃんだった時の記憶が呼び覚まされているのだろうか?
ぶっちゃけて言えば、おむつの感覚は思ったほど悪くない。
しかし、それにしても……。

「うう……恥ずかしいよ……」

「あっ、いままた『うう……』って言った!」

……しまった。

「……ばぶぅ」

観念して言い直す。

「はい、よくできまちた!」

真奈ちゃんはわざとらしい赤ちゃん言葉でわたしを褒めあげる。
なんだか自分のアイデンティティーがどんどん破壊されていってる気がする……。

そんなこんなでわたしが赤ちゃんになるための修業が始まった。

お昼の時間になるとご飯は真奈ちゃんが作ってくれた。
わたしはただ寝転がっているだけだった。

ああ、こういう時はすごく楽だ。
わたし一人で自炊する時は精々1、2品目だが、
真奈ちゃんはあっという間に4品目作ってしまう。
しかも真奈ちゃんの作るご飯は本当に美味しい。
真奈ちゃんは間違いなくいいお母さんになると思う。

うーん、真奈ちゃんの旦那さんがうらやましい。

あっという間に真奈ちゃんの料理を平らげてお腹が満腹になると、
おしっこをしたくなってしまった。

キッチンで食器の片づけに勤しむ真奈ちゃんの様子をちらりと伺う。
これはやはり、おむつにおしっこしなければならないのだろうか。

その場合、おしっこでぬれたおむつを替えるのは真奈ちゃんなのだろうか。
いや確認するまでもない。今までのパターンだと間違いなくそうであろう。
真奈ちゃんは本気でわたしを赤ちゃんにしようとしている。

しかし、わたしとしても流石におむつにおしっこしたあと、
おむつまで変えてもらうなんて恥ずかしすぎる。
いや、いずれそういうことをされるにしても、今はまだその時ではない。

何か手立てがあるはずだ。
それを考えつくまで必死に我慢だ。

そんな感じで抵抗してみたものの、
特に真奈ちゃんの目を盗んでトイレにけるような
画期的アイデアは思い浮かばず、尿意だけが高まっていく。

体をもじもじせずにはいられない。

きっと無理矢理トイレに駆け込んでも引っ張り出されて、
挙句おもらしする様子をそのまま舐めるように見られてしまうだけろう。

(もうだめ……、もう我慢できない……)

どうしよう、ここままでは決壊する。

(そうだ、少しずつ出せば……)

≪じょっ……じょじょ……≫

少しばかりおむつを濡らした。
しかし、おしっこはそこで止まらなかった。
限界が状態からおしっこを止めるのはあまりに無謀だった。

≪じょ……じょぉぉぉぉおおおおおお~≫

(きゃっ……どうしよ、止まんない。おしっこが止まんないよお……!)

もう我慢していないも同然だった。
どんどんおしっこの温もりが広範囲に広がっていき、
それと同時におむつにもったりとした重みがつけられていく。

(はぁぁぁぁ……やっちゃった……。おしっこ全部出ちゃったぁ……)

我慢していたせいで、普段よりおしっこが大量に出てしまった。
そしておむつはおもらしする前よりもかなり膨らんでいた。

(おむつってこんなに膨らむんだ……)

おしっこを出した体積分、おむつが膨らむのは
よくよく考えてみれば当たり前の話だが、
実際にやってみると想像以上に膨らんでいるのが分かる。

真奈ちゃんはまだわたしがおむつにおもらししてしまったことに気づいていない。
どうしよう……、このままやり過そうか……。

そしらぬふりをして、そっとこたつのなかに入る。
お尻がぐちゅぐちゅして気持ち悪いけど仕方ない。

新年早々おむつの中におもらしすることになるなんて……。
なんだか自分がすごいダメな子になった気がした。

「よっし、食器洗い終わり」

数分後、真奈ちゃんは冷水で赤くなった手をこすりながらこたつに入ろうと布団を持ち上げた。

「あれ……? くんくん……」

なにやら異常を察したらしく、
真奈ちゃんはこたつの中に自らの顔を突っ込んだ。

「ちょっ、なにやってんの?」

「あれぇ~? なんだかおしっこの匂いがするけど?」

しまった。
おしっこのにおいがおむつから漏れてこたつの中に充満していたのだ。

「……」

真奈ちゃんの顔をみるのが恥ずかしくて思わず顔をそむけてしまう。

「凛ちゃん、おもらししちゃったな~?」

「べ、別に……お、おもらしなんかしてないって……」

「隠しても分かるんだから! ママにおむつ見せてみなさい!」

そう言って、真奈ちゃんはわたしの両腕を掴んでこたつから引きずり出す。

「ちょ、ちょっとやめて~!」

そのままわたしのスカートをめくり上げると、
真奈ちゃんの面前に大きく膨らんだおむつが露わになってしまう。

「ほら、こんなにおむつが膨らんで! おしっこしたらきちんとおむつ換えないと、
 おむつかぶれしちゃうでしょ?」

「でもぉ……」

「はい、足を開いて! おむつ替えるよ!」

しぶしぶ足を真奈ちゃんのほうに向けて開く。
おしっこで膨らんだおむつが真奈ちゃんに丸見えだ。
恥ずかしさで頭が真っ白になる。このまま死んでしまいそうだ。

真奈ちゃんは腰の位置にあるテープをびりびりと左右と剥がした。
おむつに封印されたおしっこのにおいが一気に解き放たれる。
真奈ちゃんにも当然このにおいが伝わっているだろう。

しかし、真奈ちゃんは嫌な顔をせず、おしりふきでわたしのお股を丁寧に拭きあげる。
そして濡れたおむつの代わりに替えのおむつをお尻に敷く。
その真剣なまなざしに思わず感心してしまう。

「ママ……、嫌じゃないの?」

「何言ってるの、わたしは凛ちゃんのお母さんなんだから嫌なわけないでしょう?」

当然のように言う真奈ちゃんに、
不覚にも少しだけその母性的なやさしさが、
心地よい感じがしてしまった。

わたしは今まで両親からこんな愛情を与えてもらったことがあるだろうか。
今までそんなことは何も気にしたことがなかったが、
今はなんだか胸が苦しく切ない気持ちになる。


そんなわたしの気持ちなどつゆ知らず、真奈ちゃんは続けて、赤ちゃんパウダーを
わたしのお尻にまぶしたあと、おむつの前方をお腹の下にかぶせて、
再びテープで留めた。

「はい、おむつ替え終わり」

「……ありがとう」

「どういたしまして」

わたしは、さらさらになったおむつにどこか安心感を感じていた。
よく説明できないが、恥ずかしい気持ちとは別に、
わたしの中に新しい感情が芽生えつつあった。
しかしそれはまだ、いまのわたしにはむず痒くて受け入れることができなかった。
それでも、その感情は胸の奥で少しずつ、ちりちりと赤く煌めきはじめていた。

ハイスクール・ベイビー(一)

わたしの住んでいる村には言い伝えがある。
その言い伝えは、1月1日、新年を明けた日におねしょをすると呪いがかかって、
その年の間は、毎日おねしょし続けるというものだ。

どうせ、この言い伝えも新年早々から子供がおねしょしないように
どこかの親が適当に思いつきでこしらえたもので、それが子供づてに広がっていったのだろう。
まったく子供だましもいいとこのばかばかしい話だ。


……そう思っていた。
実際に自分がその呪いにかかるまでは。




『2016年、おめでとう!ハッピーニューイヤー!』

年の瀬、高校2年生のわたし(早乙女 凛)は親友の真奈ちゃんを自宅に招いて遊んでいた。

「はー、とうとう新しい年になっちゃったねー」

「うん、真奈ちゃんが作った年越しそば、おいしー。ほんと料理上手だよねー」

「えっへっへ」

真奈ちゃんとは小学校以来の付き合いだ。
彼女はお調子者だけど意外にしっかりしていて、能天気なふりをして実は責任感が強かったりする。
一方、わたしは自負できるほどおおざっぱでおっちょこちょいなうえに、
その場のノリに流されやすいという、まったくいい加減な性格なのだが、
何故か私たちはウマがあって、小学生のころから今にいたるまで、ずっと仲良しの親友だ。

お互い、頻繁にお泊まりに行きあったりするし、何かイベントごとがあっても
大体一緒に過ごしていたりして、年末年始も毎回、どちらかの家で年を越すというのが恒例になっている。

今回はわたしの家で新年を迎えることになったのだが、
しっかりものの真奈ちゃんはとても器用で料理上手なので、
今年も彼女に年越しそばを作ってもらったというわけだ。

「はー、本当においしいね。温かいお茶とも合いますわ~」

ただのそばでも作り手が違うだけでこんなにも味が変わるものかと、
彼女のそばに感心しながら湯気立つ湯呑をすすっていると真奈ちゃんは思い出したように言った。

「あっ、そういえば凛ちゃん。今日は絶対おねしょしちゃだめだよ!」

「へ?」

真奈ちゃんの何の脈絡もない忠告に「?」マークが3つくらい頭上を跳ねる。

「急にどうしたの? この歳になっておねしょなんかしないよ……。なんでまた?」

わたしがそう問うと、真奈ちゃんはわたしの無知に驚いて言った。

「え? 知らないの? 村の言い伝えよ」

「何それ……」

すると、真奈ちゃんはまゆを寄せながら真面目な顔で説明を始めた。

「小さいころ、おばあちゃんに聞いた話なんだけどさ、江戸時代の頃、
 このあたりを支配していた大名にお姫さまがいて、そのお姫さまはこの村の出身だったんだって。
 それで、ある新年に、殿様の布団にそのお姫さまがおねしょして、
 激怒した殿様がそのお姫さまを村に帰してしまった。
 それ以来、そのお姫様は元旦におねしょをしてしまったことを死ぬまで悔い続け、
 それが呪いとなり、以来この村で元旦におねしょした女の子は、
 その年は毎日おねしょするようになるんだって」

その話を聞いて思わずあきれてしまう。

「そんなの迷信だよぉ。都会の空にはドローンが飛んで、車も自動で走ろうかという
 今の時代にそんな迷信なんて……」

「でも、わたしだって、小学校卒業するまではずっと、
 元旦はおむつさせられてたよ。念のためだって言われて」

「えー? 本当に~? 」

「本当だって~」

「布団を濡らさなきゃいいんだ?」

「そうみたい」

「あはは、絶対冗談でしょ」

本気にしようとしないわたしを脅してやろうと、
真奈ちゃんはニヤニヤとふざけながら肩でわたしの身体を小突いて言った。

「そんなこと言って、今日おねしょしたら大変なことになるんだから~!」

「いやいや、言い伝えが本当だったとしも、おねしょはないわー」

くだらない冗談でけたけた笑っているうちに、時計の針が夜中の二時を指した。
その頃にはわたしも真奈ちゃんも話し疲れて、ウトウトし始めていた。
こんな遅い時間まで起きているのは年末年始くらいのものだ。

「ふわぁ。真奈ちゃん、もう寝よか……」

「そうだね……あ。 わたしトイレ行ってくる。 凛ちゃんは?」

「あー、わたし別にしたくないし、いいやー」

「え~? おねしょしちゃうぞぉ~?」

「まさか……しないってばー」

真奈ちゃんは鼻歌をうたいながらトイレに向かっていった。
わたしも本当はすこしばかり尿意があったが、それよりも布団の誘惑の方が優っていた。
それにこの歳になっておねしょなんて天地がひっくり返ったって有り得ない。
本当におしっこしたくなったら、そのとき起きるだろうと思っていた。
布団をかぶり、その温もりに包まれるとすぐに頭がぼーっとしてきた。

(初夢は今日だっけ……?明日だっけ……?
 一富士二鷹三茄子……そういえば続きがあったような……えーと……)

真菜ちゃんがトイレから戻ってくる前に、わたしは眠りの世界に吸い込まれていった。

――気づくとわたしは教室にいた。

教室にはクラスのみんながいて、先生が歴史の授業をしているところだった。
歴史の授業では、江戸時代の出来事についてクラスメイトが順番に朗読している。
わたしはその朗読を尻目に、強い尿意と戦っていた。

(う~、おしっこに行きたい……)

一刻も早くトイレに行きたいのに、お経のような朗読がいつもより時間を長く感じさせる。
教室の椅子に腰掛けたまま、足をばたばたさせたり、
肩をもじもじさせるなど落ち着きなく授業が終わるのを今か今かと待ちわびていた。

「じゃ、続きは早乙女」

「はっ、はい!?」

尿意に気を取られて油断していると、自分の番が来た。

(なんでこんな時にわたしの番になるの~!?)

必死に我慢しながら教科書を手に取って立ちあがり、朗読を始める。

「江戸幕府が成立すると……戦乱の世が終わり……」

立ち上がると膀胱に溜まったおしっこが揺れて余計に尿意を刺激する。

(くふぅぅぅぅぅ~、おしっこ出ちゃいそう……!)

「あ……あらゆる地域にさまざまな村が作られ、そこには独特な奇習も生まれ……はぁっ」

我慢していると尿意の波が一段と高くなり、思わず膝が崩れそうになる。

「どうした?」

わたしの様子を不審に思った先生が尋ねた。

「はぁっ……はぁっ……」

(このままじゃもれちゃう……!)

『すみません、トイレに』

その一言を言いたいのに、なぜか言葉を発することができない。

「ん……くっ……!」

(やだ……なんで声が出ないの……?)

脂汗を出しながら強烈な尿意をなんとか我慢しようとする。
しかし、それもほとんど限界だった。

≪じょっ……じょじょっ……≫

(ひぃ!? いまちょっと出ちゃった……!)

じんわりと濡れた感覚が股下に広がる。

「どこか具合が悪いのか?」

先生は眼鏡の位置を直して、さらに怪訝な顔でこちらを見つめた。
わたしの異常な様子に教室中の生徒が視線を向ける。

「はっ……! だ、大丈夫です!」

全然大丈夫ではないのに、反射的に大丈夫と言ってしまった。
しかし、このままでは絶対に全部もらしてしまう。
わたしは撤回して、トイレに行きたい旨を先生に言おうとした。

「……う! ……っ!」

トイレに行きたいと伝えたいのだが、なぜか喉がつまってそれができないのだ。
そうこうしているうちにも、ほど少しもらしたおしっこが、太ももを伝っている。

(おかしいよ、いったいどうしちゃったの!?)

思わずパニックになって息苦しくなる。尿意も限界だ。

(くっ……だめ……もう我慢できないよぉっ……!)

「はひぃ……!」

≪びゅっ……!≫

少し息を吸い込んだほんの一瞬、まるで看守の隙をついて
牢屋から脱出する囚人のように、また少しおしっこが出た。
そして、それが決壊の合図だった。

「ああ……やだぁ……」

下半身に力が入らなくなる。

≪じょっ……じょじょじょぉぉ~≫

尿道が弛緩して、自分の意志にかかわらず、
おしっこがすごい勢いで放出され始める。
おまたから太ももに生暖かい温もりが広がる。

「いやぁ……なんで……」

「早乙女? どうした?」

≪ばたたたたた……じょぉぉ~≫

おしっこは早々にパンツから漏れ出し、床にはねて恥ずかしい音を奏でる。

「え? 凛ちゃん……おもらし……してる?」

後ろの席に座っていた真奈ちゃんは、
わたしの足元に容赦なくひろがっていく水たまりを見て、口を押えて驚いた。

「やだぁ……見ないで~」

≪ぱしゃぁぁぁぁぁ……じゅぅぅぅぅ~~≫

「おい、マジかよ……、早乙女がもらしてんぞ」

教室にいる男子にもわたしがおもらししていることに気付かれてしまった。
わたしの足元にはすでに大きな水たまりが出来上がっていたが、まだおしっこの勢いは衰えることを知らない。
水たまりの一部が床の溝に沿っておしっこの道を作り、後ろにいる真奈ちゃんのほうへ流れていく。

(やだ、流れていかないで! おしっこ早く止まってぇ……!)

そんなわたしの心からの懇願もまるで無視しておしっこが流れて、その領域を広げていく。

≪じょろろろろ~~~~~~~びたびたびたびた!≫

おしっこがすべて出終わるまで、ほんの十数秒くらいだったと思うが、
わたしにはそれが何分にも長く感じられた。

「はぁぁ……あ……」

ようやくおしっこが止まると、わたしは腰が抜けて足元のおおきな水たまりのうえに座り込んでしまった。

「凛ちゃん! 大丈夫!? 凛ちゃん!?」

真奈ちゃんがわたしの肩を小さくゆすったが、
わたしはもう恥ずかしさのあまり泣き出さずにはいられなかった。

「うわぁぁぁぁん……えっえっ……ひえぇぇぇぇぇん」

とんでもないことになってしまった。
もう恥ずかしくて学校なんか行けない……!
頭が真っ白になり視界がぼやけていく。

――

「凛ちゃん……凛ちゃん!」

「は……!?」

布団から飛び起きると、真奈ちゃんが心配そうにわたしの顔を覗き込んでいた。
部屋には電気がつけられていた。

「あれ……、わたし……」

状況がよく把握できない。先ほどまで教室にいたはずなのに。

「凛ちゃん、 大丈夫? うなされて泣いてたよ?」

そうだ。思い出した。
さっきのは夢だったんだ……。

「はぁー、なんだ夢かぁ……」

布団に覆い被さるようにばったりと倒れた。
ちらとカーテンの隙間から外を見ると、もう明け方になっていた。
肩透かしをくらったような気持になる反面、夢で本当によかったと安堵する。

「どんな夢みてたの?」

真菜ちゃんが不思議そうに尋ねる。

「あっ、えーと、うん……えへへ……」

とりあえずここは笑ってごまかした。
教室で盛大におもらしする夢を見てたなんて、恥ずかしくて言えない。

「はー、びっくりした……。ぐっしょり汗かいちゃったよ……へへ」

そういいながら、汗の具合を確かめようとパジャマの内側からお尻に手を当てると……。

「ひっ!?」

布団の温もりとほぼ同じ温度だったので気づかなかったが、
パジャマが尋常でないほど濡れそぼっていた。

(そんなっ……うそ……)

今度はパジャマの内側ではなく、外側からもう手を当ててみる。
まるで、水でもこぼしたかのようにぐしょぐしょだ。

おそるおそる上布団をもちあげて、自分のおまたの方を見てみる。
パジャマが濡れそぼって肌にひっつき、大きなしみを作っていた。
おもわず顔が青ざめる。どこからどうみてもこれはアレだ……。

(どうしよ……)

もはや誤魔化せる状況ではなかった。

「真菜ちゃん……」

わたしは観念した。

「うん?」

「絶対、絶対に誰にも言わないでね?」

「どうしたの?」

「その……おねしょ……しちゃったみたい……」

「ええーーーーー!?」

真奈ちゃんは思わず大きな声を出す。

「しっ!声が大きいよぉ!」

「い、今そこに、おしっこ……しちゃったの?」

「う……うん……」

わたしがおずおずしながらうなづくと、
真奈ちゃん面白半分にわたしの上布団を一気にはぎ取った。

「きゃっ!」

敷布団に描かれた大きな世界地図が露わになる。
真奈ちゃんはそれを見た瞬間、笑いをこらえようと頬を膨らましたが一瞬で破裂した。

「ぷっ……! くくっ……きゃははははは!」

腹を抱えて足をばたばたさせながら笑い転げる真奈ちゃん。

「真奈ちゃん、笑いすぎだよぉ……!」

顔から火が出そうだ。高校生にもなっておねしょするなんて……。
しかもそれを親友の真奈ちゃんに見られちゃうなんて!

「きゃっはははは、だって!お、おねしょなんて!ひー!おもしろすぎる~!」

真奈ちゃんは笑いすぎて涙目になっている。

「そ、そんなに笑わないでよぉ……」

「はー、新年早々からいいもの見せてもらったよ、
 だから言ったでしょう? トイレ行かなくていいの?って」

「だ、大丈夫だと思ったんだもん……!」

「きゃはは、幼稚園児みたい!」

真奈ちゃんは笑いすぎて苦しそうによがった。

「うう……」

自分が情けない……。まさか元旦からこんな失態をするとは……。
これも全部、真奈ちゃんがあんな話をするから!

……そういえば、言い伝えだと、元旦におねしょすると毎日おねしょするんだっけ。

真奈ちゃんもその話を思い出したようで、わたしを囃し立てた。

「あーあ、凛ちゃん、今年はこれから毎日おねしょだね!」

「もー、からかわないでよ!」

「どれどれ、おねえさんにおねしょを見せてみなさい」

そういって真奈ちゃんはわたしが作った世界地図をまじまじと眺める。

「おお~、これは派手にやっちゃったねぇ」

「ううっ……布団と、シーツ洗わなきゃ……」

「そうだねー。ここはわたしが片付けておくから、シャワー浴びてきたら?」

「うん……ごめんね……」

恥ずかしいけれど、ここは真奈ちゃんの言葉に甘えることにする。
びしょ濡れになったパジャマを脱ごうとすると、真奈ちゃんが鼻の下を伸ばしてこっちを見ていた。

「ちょっと、なんでこっち見るのよ!?」

「だって、なんだか小さい頃の凛ちゃん思い出しちゃった」

「それって……」

「そう、小学生の頃一度、凛ちゃん体育の時間におもらししちゃったよね?」

真奈ちゃんの言うとおり、わたしは小学2年生のころに一度、
体育の時間におもらししたことがある。あの時の体験はかなりトラウマだ。
おもらししたあと、泣きながら真奈ちゃんに保健室まで連れて行ってもらったっけ。

「あの時の凛ちゃんもかわいかったなぁ」

真奈ちゃんは遠い目をしてうっとりと回想にふけっていた。

時々思うが、真奈ちゃんは、少しレズっ気がある。
でも、わたしもそんな真奈ちゃんのことが嫌いではない。

「もおっ! 知らない!」

口ではそう言いながら、サービスのつもりで彼の目の前で脱いでみる。
しかし、パンツまでもおしっこ色で黄ばんでしまっていて激しく後悔した。
真奈ちゃんは笑いをこらえながらそれをまじまじと見ていた。

洗面室に行って洗濯機の中にパジャマとパンツを放り込み、
お風呂の温かいシャワーでおしっこを洗い流しながら夢の回想をする。

それにしても、教室でおもらしする夢なんて……。
ああ、どうしておねしょなんかしちゃったんだろう。
今までおねしょなんかしたことなかったのに……。

ふと真奈ちゃんの言っていた、古くからの言い伝えが頭をよぎる。

まさか、お姫さまの呪いとかじゃないよね……。

これから毎日おねしょする自分を思い浮かべて思わず、首を横に振った。

いや、そんなことありえっこない!

不安な思いを必死に頭から打ち消す。


お風呂を上がって新しいパジャマに着替え、自分の部屋にもどると、

「じゃ、布団はここに干してと……」

真奈ちゃんはおねしょのしみが広がった布団をベランダ越しに干そうとしていた。

「きゃー!!ちょーっと待った!!」

わたしは大声で真奈ちゃんが布団を干すのを制止した。
わたしがこんなに過剰に反応したのは、ベランダの向かいには
ご近所さまの田島さんちがあって、そこには雄大くんという小学生の男の子が住んでいるからだ。

村のご近所付き合いはかなり頻繁で、雄大くんとは学校の行きがけに
途中まで一緒に行ったりすることもあり、よく話したりもする。
彼は基本的に生意気なガキんちょだが、かわいいところもあって
わたしのことを「ねーちゃん」と呼んで親しんでくる。

それだから、わたしもついついお姉さんかぜを吹かせてみちゃったりすることもあり、
要するに彼はちょっとした弟のような存在なのだ。
しかし今、彼にこの事態を知られてしまうと、そのお姉さんという立場を揺るがせてしまうではないか!
雄大くんにおねしょしたことがバレたりすると、もう立つ瀬もない。


「なんでそんな目立つところに干すの!?」

息を切らしながら真奈ちゃんに問い詰める。

「いや、ご近所さまにもこの件を報告しないといけないと思って……」

真奈ちゃんはわざとらしくとぼけた様子で言った。

「も~! ばかばか! 調子に乗りすぎっ!」

わたしは飛びつくように布団を鷲掴みにして引き下げた。

「はは、ごめんごめん」


――その日の夜。

今日は真奈ちゃんも泊まりに来てはおらず、部屋で寝るのはわたし一人だった。
全然信じてなどはいなかったが、真奈ちゃんの言っていた迷信が気になって、
念のため、きちんとトイレを済ませてから寝ることにした。

「ふう、これで安心……っと」

そして翌朝。
わたしが起きたのはまだ朝の6時だった。

あの大量に汗をかいたような、昨日と同じ違和感、それで目が覚めたのだ。
おそるおそる、布団をめくってみる。

「ひぃ……!」

シーツがまたしても世界地図を作っていた。
おかしい、寝る前にきちんとトイレに行ってたのに……!

「またおねしょ……しちゃった……!」

ぐしょぐしょに濡れた布団を見ておもわず呟いてしまう。
それと同時に真奈ちゃんが言った、あの迷信が思い浮かんだ。

「ひょっとして……」

わたしは頭をかかえて叫んだ。

「あの迷信って本当だったの~~!?」


(二)へ続く
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モットーは、ロリ・おしっこ・おもらし・おむつです。

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